【気持ちいい】という基準
私達のような仕事を評価するのは非常に難しいことです。
なぜなら数値にしにくいからです。
最終的には「どれだけのお金を払ってもらっているか」で判断する、という手段はあります。
ありますが、少し不安ですね。「言葉巧みに沢山お金を払わされている人が多いのではないか」と考えられなくもありません。
「効果があった」というのも「言葉に乗せられたプラシーボかもしれない」と思えなくもありません。
そこで私は学生の頃から筋肉の硬さを測定できないか、効果を数値化できないかなど測定器を探したり、自分で自作してみたりしてきました。
そうした客観的な指標があればズバリ評価できるからです。
しかし上手くいきません。
最新の健康に関する展示会などにも足を運びますが、まともなものはまだ見つかりません。測定の方法によって結果が変ったりするので意図的に結果を変えられてしまうのです。
資生堂さんの研究グループに紹介してもらい、手技を測定する機械を見せてもらったりもしました。しかし優しい緩やかな手技の測定はできるのですが、しっかり圧をかける私達の手技では軽く閾値を超えてしまい、うまくいきません。
どうにかして私達の方法が「一番効果的だ」と証明したいと思うのですが、できずに何年もの月日が流れました。
そんな中、まったく別の基準から類推して効果をある程度まで見えるものにすることに思いがいきました。
その思いつきに私はすぐさまネットで検索をしました。そして見つけたのはある国立大学の研究室です。脳情報処理の研究をされています。
そこで勝手にも准教授の方と質問のやり取りを何度も何度もさせてもらいました。全部載せると原稿用紙に16枚分になってしまうのでダイジェストとしてまとめて以下に紹介いたします。
伊澤…私はマッサージを仕事をしておりまして「気持ちいいという感覚」に関してもっと深く知りたいと思っております・・・・・
准教授…一般に人は、好ましい刺激を与えられた時、あるいは、苦痛な刺激を取り除かれたとき、嬉しい、心地よい、と感じ、その時、脳内のいわゆる「報酬系」という一連の領域が活性化されているということです。
マッサージの効果も、それ自体気持ちがいいということと、体の痛みやだるさから解放されるという2つの要素があると思います。
伊澤…好ましい刺激や苦痛な刺激を取り除くということですね。
考えてみるとそれを同時にやっているのですね。
もしよかったらもう一度お返事頂けませんでしょうか。
それは脳はマッサージの「気持ちいい」をどこでどう受容しているのかということです。
やはり触覚のマイスナー小体ということになるのでしょうか。そしてその電気刺激を脳が快感と判断する。という流れで合っていますでしょうか。
准教授…おっしゃる通りです。感覚受容器で受容された感覚が、脳の中で、気持ちいいと解釈されます。
例えば、味覚にしても同じことです。甘い味を受容する受容器が舌にあります。たいていの場合、甘い味は好ましいと感じられますが、甘いものをたくさん食べすぎた後は、苦痛になりますね。同じ受容器が刺激されていても、時と場合によってそれを心地よいと感じたり、苦痛に感じたりします。
皮膚にはマイスナー小体など、いろいろな受容器がありますが、マッサージや指圧を加えた時には、おそらく筋肉の中の受容器も刺激していると思います。
こういった刺激は、体性感覚の求心路を通って、大脳皮質の一次体性感覚野や島皮質などといった領域に伝えられます。それらの領域で、何らかの解釈が加えられ、好ましいと判断された場合には、脳内の報酬系にその情報が伝えられます。
脳内報酬系は、黒質のドーパミン細胞、腹側線条体(側坐核)などで、脳機能イメージングの研究より、あらゆる「気持ちいい」刺激にともなって活動することが知られています。
伊澤…私達が筋肉を「ぐーっと」圧して相手が「気持ちいい」と感じてくださるのは体が「これは良いことだ」と理解してくれているからなのかなと思えました。体が良いことだと判断するから気持ち良いと感じるのかなと。
この解釈は合っていますでしょうか。
そうだとすると私達としてはとても勇気が持てます。
准教授…おっしゃる通りだと思います。とにかく知覚というのは主観的なもので、同じ刺激でも文脈によっては気持ちよくなることもあるし苦痛なこともある、ということですね。
マッサージには「実際に血液の循環が良くなる」「自律神経系の活動バランスが良くなる」という【生理的な効果】と「気持ちがいい」という【心理的な効果】の両面があるのだと思います。心理面は結局はこころの癒しにも通じると思います。
探究を続けていかれて、人々によりいっそうの癒しを与えてください。
伊澤…今後も精進をして何かしら革新的なアプローチを見つけ出したいと思っています。
どうもありがとうございます。
このようなやり取りです。
これで私は「気持ちいい」とう感覚がどれだけあるかで効果を類推できると考えました。もちろん絶対の評価ではありませんが、自分の本能としての脳の働きを信じるなら「気持ちいい」ことは自分に良いことがなされていることということになるのですから。
つまり「どれだけ気持ちいいか」は「どれだけ良いことがなされているか」という基準に使えるということです。
ぜひ深層筋アプローチを受けてみてください。そしてそれがもし他のマッサージよりも気持ちよければ他のマッサージよりも効果がある、ということに近いということです。
だから私達は「気持ちいい」ことにこだわりますし、それを判断基準として手技を考えていきたいと思っています。
ぜひお受けになって「一番気持ちいいか」を判断してみてください。